緑川洋一展Ⅰ/Ⅱ
2013年7月20日から直島宮浦ギャラリー六区において開催しています。
Ⅰ 夏会期 2013.7.20sat-9.1sun
Ⅱ 秋会期 2013.10.5sat-11.4mon
緑川洋一は、1940~50年代にかけて、瀬戸内各地を訪れ、その地
独特の風土や文化、そこに暮らすn人々の姿をカメラに収めました。
それらは、近代化の中失われつつあった文化に光を当てるドキュメント
としての価値を持つ一方、単に「ありのままの真実」を捉えるということ
を超え、被写体の持つ力強さを伝えます。
本展では緑川が後年「郷愁シリーズ」と題し編纂した作品の中から、
夏と秋とで展示替えを行い、約60点を展示致します。
力強い肉体や視線を持ち、強烈な意志を感じさせる瀬戸内の人々の
姿が、 作品に対峙する私たちに「生きること」とは何かを問いかけ、私
たち自身の生きる意志をび起こすことでしょう。
今回展示している《おちょろ舟の女たち》の組写真。
父独自の演出で構成されている物語ですが、その思いを綴った
一文、『売春哀話』を紹介します。
売春哀話ーおちょろ舟の女たちー
緑川 洋一
その昔、源平の戦いに敗れた平家落武者の妻女が、沖行く船に
操を売ったのが始まりという。 広島県大崎上島木之江港に伝わる
売春婦物語である。
夕ぐれせまる頃、数十そうのおちょろ舟が勢揃い、定刻を迎えると
島の古老の吹くラッパを合図に、港に停泊する船にむかっていっせい
に漕ぎだす。交渉がまとまると、船から降ろされた縄梯子をたくみに昇
り、船室で一夜を共にするのである。彼女たちは炊事洗濯身の回り一
切の面倒をみる港妻である。
そして船の来ない日は、家でも客を迎える。多くの港の女の中にあっ
てU子は何時も憂いを含んだ女であった。
昭和三十三年三月売春防止法発令と共に、彼女たちは何処ともなく
島を立ち去って行った。
(昭和三十二年撮影)
今回ご紹介する《おちょろ舟の女たち》は、大崎上島(広島県)の
木江港に、およそ50年前まで見られた「おちょろ舟」を取り上げた
シリーズです。おちょろ舟とは、風待ち・潮待ちのために停泊してい
る船の乗組員を相手にする女たちを乗せた小舟のことです。
近世中期以降の瀬戸内海は、北国の物資を大阪へと輸送する際
の、物流の大動脈にあたっていました(西回り航路)。造船・航海技
術の進展によって大型化した輸送用の帆船(北前船)は、日数をか
けて海岸沿いを航行する「地乗り」でなく、瀬戸内海の中央を倍近い
速さで走り抜ける「沖乗り」の航路を次第に取るようになりました。
このような時代の流れのなかで、御手洗(大崎下島)や木江など、
沖乗り航路にとって便利な地点に新たに港湾が整備されたのです。
これらの港はやがて中継貿易の拠点としても栄え、問屋・芝居小屋
茶屋などが揃った新興都市として成長しました。そして遊女たちのお
ちょろ舟が、当地特有の風俗として知られるようになりました。
明治中期以降の機械船普及に伴い、停泊地とされなくなったこれら
の港は次第に衰退への道を歩みますが、このおちょろ舟も1958年
の売春防止法施行とともに消滅しました。
緑川洋一は、今回ご紹介する《おちょろ舟の女たち》を新法が施行
される前年(1957)に撮影しています。時代の流れのなかで消える
運命にある瀬戸内の情景に関心をもったのでしょう。このほかにも、
干拓される児島湾など、高度成長期に差しかかり変容を余儀なくされ
る瀬戸内の風土を、この時期の緑川は積極的に取材の対象にしてい
ます。注目すべきは、この消えゆくおちょろ舟のことを取り上げるにあ
たって、緑川は応分の演出を行いながら、一人の「おちょろ」をめぐる
物語としたうえで、組写真に仕上げている点です。単なる記録写真を
超えたこの手法は、親交のあった写真家・林忠彦(1918-1990)
による、演出の入ったポートレートや組写真を参考にしているのかも
しれません。この《おちょろ舟の女たち》における物語の巧みな展開
は、一連の緑川の作品のなかでも出色と言え、瀬戸内の風土に取
材しながら人間の物語を紡ぎ出す緑川の手法が、看取できる作品に
なっています。
(学芸員 廣瀬就久)
2009年4月1日―5月31日 岡山県立美術館にて開催中
ありし日の烏城を偲ぶ
岡山城の起源は1520年代、石山へ砦を築き金光氏が居城して
いたという。その後宇喜田氏となり1597年に8年の歳月をかけ、
現在地へ三層六重の大天守と三十五棟の櫓を完成した。
宇喜多氏滅亡。小早川氏を経て池田氏代々の居城となる。
明治2年(1870)藩籍奉還により国の所有となる。明治5年城の
存廃に際し岡山城は残された。
烏城と呼ばれ岡山のシンボルでもあったが、さきの大戦で昭和
20年6月29日の大空襲により消失した。
写真は焼ける2~3年前から、春夏秋冬四季にわたって写し、
これから内部を写す段になって消失してしまった。
展示写真は、写した直後引伸ばし、制作したもので、いわゆる
ビンテージといわれる貴重なもの。60余年を経た作品である。
緑川 洋一
この作品展は、岡山県立美術館で2008年10月3日まで開催中
富士フィルム株式会社は、大事な記録、愛するものの貴重な思い出
絆、輝かしい瞬間などを写真に残すことは、人間にとって非常に大切
な文化です。また、美しい風景写真や芸術的な作品を鑑賞することは
人の心を豊かにします。
3月26日オープンした「富士フィルム ウェブ写真美術館&ショップ」
は、インターネットで気軽にアクセスするだけで、自分の好きな時間に
ゆっくりと心いくまで鑑賞できます。
緑川の作品も50数点観ることができます。
http://fujifilmmuseum.com/ で鑑賞してください。