今回紹介する<島の民芸ー人形芝居と島歌舞伎ー>は、直島で行われて
いる女性だけによる人形芝居(女文楽)と、小豆島に伝わる農村歌舞伎をテ
ーマにしたシリーズです。
直島における文楽の歴史は、天領であった江戸時代に遡りますが、明治時代
以降下火になった一時期を経て、昭和23年に島の女性たちによって再興され
ました。小豆島の農村歌舞伎もその端緒は江戸時代に遡り、幕末から明治時
代かけて盛んに演じられていたと考えられ、かつて島には20余りの舞台があ
りました。現在でも行われているものに、小豆島町(旧池田町)の中山歌舞伎
や、肥土山歌舞伎があります。
直島の女文楽は、再興された翌年(昭和24年)に敬老会など有志によって公
演が実現しますが、この作品の撮影年代(昭和24-5年)から考えると、この
再興間もない頃の公演を緑川が軽快なフットワークによって取材していたこと
になります。またここに写されている農村歌舞伎は、その1枚のなかに<春日
大明神>と記された幟が認められることから、春日神社に奉納される中山歌
舞伎を取材あいたものと考えることができます。
これらの伝統芸能を撮影するにあたって、緑川は芝居の筋書きを追ったり、あ
るいは特定の役者をクローズアップするのではなく、これらの芝居が行われて
いる<場>の状況を伝えることに主眼をおいています。例えば、<船が舞台>
をみると、距離を置いて見下ろされた女文楽の舞台が実は船上にあることが
わかり、また舞台背景を描いた幕越しには、瀬戸内ならではの、島が点在す
る穏やかな海が遠望できることがわかります。また<いよいよ開演 見物は
満席>では、 大きく写されているのは、むしろ芝居目当てに詰めかけた大勢
の村人たちの背中であり、そこから我々は、この農村歌舞伎がいかに地元の
人々に愛され いるかということについて感得することができるのです。芝居の
細部を追うのではなく、芝居を成り立たせている直島や小豆島ならではの風土
をも合わせて写すことによって、これらの伝統芸能のユニークさを伝えている
シリーズだと言うことができるでしょう。
岡山県立美術館 学芸委員 廣瀬就久
2007年4月15日まで展示しています